高市首相の「進化したFOIP」演説に欠如していること
「プラダを着た悪魔②」を見てきました
本題に入る前に、楽しかった話をちょっと。イギリスでは「プラダを着た悪魔2」が5月1日に公開されましたので、早速見てきました。私は20年前の前作を、ちょうどそのころやはりサバティカルでハーバードに訪れていた頃で、そこからアメリカ国内の別の場所に出張する機内の中で見たのが最初でした。それから何度か見直してきたんですが、確かに途中でいきなりアン・ハサウェイ演じるアンディがおしゃれな服を着まくるようになるなど(その費用はどこから?)ご都合主義な所もあれど、メリル・ストリープのなりきりというかもう「ミランダ」という役をとことん楽しんでいるとしか思えない演技も手伝い、とても好きな映画の一つです。また世代的にマドンナの「Vogue」は刺さるんですよね。
それで「2」ですが、とてもよかったです。20年経った、ということを感じさせる、紙媒体の新聞や雑誌の凋落や、インフルエンサーの台頭、大富豪のマネーパワーの以前にも増しての影響力の大きさなどの世相を描きつつ、そうした厳しい状況下でのアンディやミランダやナイジェルの奮闘が面白い。エイミーもある意味大活躍。これ以上書くとネタバレになるので詳細は省きますが、私としては、20年前の前作でいろいろもやもやしていたいくつかのポイントが、すべて今回の2では回収されていて、気分すっきり!と映画館を後にしました。イギリス特有の不安定な天候で、雨に降られて濡れて帰る羽目になりましたが..
ちなみにナイジェル役のスタンリー・トゥッチ氏、ちょうど一年前に学生を連れて見に行った「教皇選挙」ではアメリカ出身の枢機卿を演じていらっしゃいました。
高市首相の「FOIP演説」
さて本題です。
今回の高市首相のベトナム訪問の背景についてはすでに別項で述べていますので、演説の内容に早速触れていきます。高市首相は今回、ベトナム国家大学ハノイ校にて「演説をしていますが、そのスクリプトは、外務省のHPで全文(日本語及び英語両方)が見られますし、演説に加え、この演説をまとめ、かつ具体策についてはかなり加筆したパワーポイントの資料のpdf版も閲覧・ダウンロード可能です。
そして今回のFOIPは「進化したFOIP」と銘打たれております。進化…確かに安倍首相や、2023年にFOIPの新たな方針を打ち出した岸田首相の時のFOIPと比べ、具体的な協力の焦点はかなり絞り込まれています。この演説で述べている三つの重点分野、というのがそれです。以下、三つの重点分野と、その具体策としてあげられていた項目を整理してみます。
第一:エネルギー・重要物資のサプライチェーン強靱化を含む「AI・データ時代の経済エコシステムの構築」:パワーアジア、日ASEANAI共創イニシアティブ(※昨年10月に発表)「FOIPデジタル回廊構想」(海底ケーブル、オープンRAN、衛星通信、オール光ネットワークなどのインフラ支援)
第二:「官民一体での経済フロンティアの共創」と「ルールの共有」:持続的な経済成長の確保のためには、ルールに基づく経済秩序の維持・拡大、特にCPTPPの活用、経済に関するルールのアップデート
第三:地域の平和と安定のための「安全保障分野での連携」の拡充:特に海洋安全保障の分野の協力。東南アジアに対しては具体的には「海上法執行能力強化」を目的とした防衛装備移転の推進、政府開発援助(ODA)や「政府安全保障能力強化支援(OSA)」の活用。
ホルムズ海峡危機以降、非常に厳しいエネルギー需給状況の中で注目されるのは、この第1の重点分野であるエネルギー・重要物資のサプライチェーン強靱化でしょう。この具体策として、この4月に日本が立ち上げた「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ」略して「パワー・アジア」が具体策として位置づけられています。ホルムズ海峡を巡る危機的状況によってベトナムや日本を含むアジアではエネルギー供給が逼迫する状況にあり、それへの対応について言及しているのは評価出来るポイントでしょう。演説の中にもありますが、パワー・アジアの下での初の案件として、ベトナムのタインホア省ニソン経済区にある大規模な製油所・石油化学コンプレックスであるニソン製油所の原油調達の支援が上げられています。ベトナムは石油備蓄量が少ないため、今年3月にはファム・ミン・チン首相(当時)が高市早苗首相に書簡を送り、原油調達の支援を要請していました。この演説に先立つ、高市首相とレ・ミン・フン首相との間で、この支援を日本貿易保険(NEXI)を通じて行うことがすでに合意されていました。
演説の中では各重点項目についての事細かな説明はありませんが、「進化したFOIP」にはかなり細かく個別の案件が記載されています。以前からの案件も混じっておりますが、今の情勢において、上記の三つの重点分野を上げていること自体は的外れではないと思います。ただ、「進化」というには、ちょっと的を絞りすぎというか、安倍政権下、岸田政権下で積み上げられたきたものをどのように発展させたと言えるのかがよくわからないのですが…
その点を除いても、私はこの演説には肝心な点が欠けていると考えています。