トランプだけが国際秩序を揺るがしているわけではない:国際報道2025で伝えそびれたこと

2025年12月26日のNHK BS「国際報道2025」年末スペシャルVoice to Voiceにゲスト出演しましたが、時間の制約もあり、いろいろと伝えられなかったこともあります。ここてまとめてお伝えしようと思います。
大庭 三枝 2025.12.28
読者限定

国際報道2025に出演!

 私にとっての2025年の仕事納めは、NHKBS「国際報道2025」の年末スペシャル Voice to Voiceへのゲスト出演となりました。スタジオにはレギュラーの辻浩平キャスター、酒井美帆キャスター、藤重博貴キャスターのお三方の他、ロバート・キャンベル東大名誉教授と私のみ、の5人での番組進行でした。国際報道2025には視聴者の方から熱心なコメントや質問が多々寄せられるそうで、それらを集約し、それに答えつつ1年を振り返るという内容でした。これまで放映してきた様々なVTRを交えながら、様々な問いに対して言語化して答えるという作業を求められたことは、今考えていること、感じていることをきちんと整理しておく、という良い機会となりました。 一週間ほど、NHKプラスで視聴できるそうです。ご興味がある方は是非ご視聴ください。

 ただ、私は非常に緊張しやすく、このときもガチガチでして、言葉はもつれるし、なんか話を上手くまとめられないし、冷や汗ものでした。前に日曜討論やNHKのキャッチ!世界の視点にも出演したことなど何度かあるのですが、それらの時も緊張してしまうのか、いまいちなんですよね...我ながら進歩ない...。それでもたまにお声がけいただき、自分の考えを世の中に広く伝える機会を与えてくださることには心より感謝なのですが、今回もやはり伝えそびれたこともあるな...とちょっと残念に思っています。それで、この場を借りて、番組内で触れた重要な部分とともに、触れられなかったこと、また触れたけれども十分には伝わっていないのではないかと考えたことなどを綴りたいと思います。

 その前に一つ、読者登録をなさってくださっている方にはお詫びをしなければなりません。国際報道2025年末スペシャルへの出演のお知らせを皆様に送りましたが、そのお知らせの中では、この番組がスタジオに視聴者の方々も招くようなかきぶりをしてしまったのですが、これは私の全くの勘違いでした。上記にあるように、スタジオにはキャスターお三方と私とキャンベル先生のみでした。誤った情報を伝えてしまい、すみませんでした。

トランプに配慮せざるを得ない世界...

 さて、この番組ではウクライナやガザの情勢、ネパールやフィリピン、インドネシアなどアジアの一部でのZ世代を中心とする若い世代の政府に対する抗議行動の広がりなど、様々な問題が取り上げられました。ただ特に番組前半部分において強調されたのは「トランプが変えつつある世界をどう見るか、それにどう対応すべきなのか」ということでした。ロシア・ウクライナ問題におけるトランプのロシア寄りの姿勢の他、具体的な事例としては各国に法外な関税率を提示した「解放の日liberation day」の影響が取り上げられました。タイが、アメリカとの間で自国への関税率を下げるための交渉において、牛肉のタイへの輸入を自由化するという妥協をしたことで、関税率は当初の37%から19%まで引き下げられたものの、タイの畜産業が逼迫しているという具体例も挙げられていました。

 確かに、各国の今のところ対応を見ると、日本も含め、いかにアメリカ=トランプに納得してもらえるような譲歩案、妥協案を提示し、なんとか関税を下げてもらうか、に必死な印象です。関税を下げる交渉でトランプ政権は、①アメリカ製品の相手国市場へのアクセス拡大②アメリカの産業活性化に資する対米投資、を突きつけますが、新興国・途上国の場合は①中心、先進国は①と②両方、という大雑把な整理ができます。ただ、例えば東南アジアの中でも一人当たりGDPが12000ドルを上回り、基準としては先進国並みとなったマレーシアはアメリカと新たに結んだ貿易協定の中で対米投資も約束させられています。その代わりマレーシアに課される予定だった24%の関税率は19%に引き下げられましたが。

 こうしたトランプ政権下のアメリカに配慮し、その意を得ようとする姿勢は、関税に関する交渉に限らず、ロシア・ウクライナ戦争がらみで、ウクライナや欧州諸国にも広く見られます。これは、結局、アメリカは国際秩序を維持する意思は後退させているものの、世界のトップの超大国でありつづけている、つまり軍事的にも経済的にも実力ナンバーワンである、という現実を反映したものでしょう。特に通貨金融の分野で、ドルが事実上基軸通貨として機能するシステムが世界を覆っていることはとても大きいと思います。

トランプ政権はアメリカの「国益」の内容を変えた

 そしてトランプ政権下のアメリカが、これまでのアメリカの「国益」に組み込まれていた、リベラル国際秩序を支える役割を果たす、ということを全否定して、実際にそれに沿った対外政策を展開していることは、これまでの既存の秩序を大きく変えつつあります。

この記事は無料で続きを読めます

続きは、4676文字あります。

すでに登録された方はこちら

読者限定
大国とミドルパワーとに二分される世界
読者限定
新年に寄せて:我々はどのような世界を望むのか
誰でも
食いしん坊党通信②冬はおでんで行こう
読者限定
国際政治におけるミドルパワー、小国、新興国の重要性〜北の国で考えたこと...
読者限定
「存立危機事態」発言は「迂闊」だったけど、もう国内ではこの件は打ち止め...
読者限定
下関・門司で考えるアジア・世界との繋がり
読者限定
「アジアの中の日本」という今後の日本にとって不可欠な視点
読者限定
今後のAPECの存在意義?