「存立危機事態」発言は「迂闊」だったけど、もう国内ではこの件は打ち止めにしたほうがいい
このところ話題のあの発言
ここのところ、学会はじめ、いろんな研究会に出席したり話したりする機会が多く、いろいろと考えさせられることも多いです。
原稿を書いたり、本を執筆したりというのは1人で行う作業で、私の場合はちょっとまとまった時間をとって落ち着かないとなかなか進みません。私が知っている知的生産性の高い猛者たちは移動中も原稿をドンドコ書き進めたりするようなのですが、私はまず電車だと外の景色を見るのが楽しくて仕事になりません。そして、いざ、仕事をするとなると集中してしまって電車を降り損なったりします。よって新幹線では、景色を見たいのもあるけど、降り損なうのも怖くて仕事が出来ません。王やって言葉にしてみると、つらつらと仕事をしない言い訳を書き連ねているようですね...。
話がそれましたが、研究者にとって学会や研究会の出席は、自分がその場で発表をする機会が与えられるだけではなく、いろんな人と意見交換したり他の人の発表を聞いたりするのも大変勉強になるし、自分の考えがクリアになったりするのでとても貴重です。執筆、インプット、および外向きの仕事はある程度時間的にはバーターになったりもするのですが、それでも学会や研究会出席は価値があると思っています。また、自分が研究会を回す立場に立つのも、ちょっと大変なこともありますがやはり面白いです。
それで、このところ、どの研究会でも出席すると話題になっていたのが高市早苗首相の11月7日の衆議院予算委員会における答弁における「存立危機事態」を巡る発言でした。高市首相が、台湾有事が起これば集団的自衛権行使が可能となる「存立事態事態」になり得ると明言したことに対して中国が反発、また日本の国内でもこの発言の是非について様々な意見が飛び交っています。専門家の間でも意見は割れており、いわゆる右派とか左派とか関係なく、見方がずいぶん異なっているようです。
私は、台湾有事が起これば集団的自衛権行使が可能となる「存立危機事態」になり得るということを明言してしまったことについては、おっしゃらなくてもよいことをおっしゃったのではと考えます。外交において、なんでもはっきり明言すればいいというものではない、と考えています。日本の実力、および日本を取り巻く先行き不透明な状況下ではもっと発言は慎重にあるべきだと考えます。
他方、すでに高市首相は11月25日、存立危機事態を巡る発言について、従来の政府見解を維持するものであり、それを逸脱するものではないという内容の答弁書を閣議決定しています。よって、もうこの問題でこれ以上この発言を問題視し、つっこむのは少なくとも日本の国内政治においては控えるべきで、手打ちをすべきだと考えています。ましてや、中国の要求に従い、発言内容を撤回するなどあってはならないと考えます。
発言の何が問題だったのか
まず、問題となった高市首相の発言を改めて見てみます。メディアでもXでも、発言がいろいろと切り取られたり、過度に要約されすぎたりしているような気がしますので、まずは高市首相の発言がなされた2025年11月7日の予算委員会の議事録の原文を見てみます。
注目されたのは、岡田克也議員の質問に対する一連の答弁でした。岡田議員は、存立危機事態として自衛隊が発動する基準が明確でない、という点を追及していました。そして自民党副総裁の麻生太郎氏が「昨年一月にワシントンで、中国が台湾に侵攻した場合には存立危機事態と日本政府が判断する可能性が極めて高い」という発言をした、ということを例に取り、やはり存立危機事態として自衛隊が発動することが許容される基準が明確でないことを問題視する発言をしました。それに対し、首相はこのように述べました。
「麻生副総裁の発言については内閣総理大臣としてはコメントいたしませんが、ただ、あらゆる事態を想定しておく、最悪の事態を想定しておくということは非常に重要だと思います。
先ほど有事という言葉がございました。それはいろいろな形がありましょう。例えば、台湾を完全に中国、北京政府の支配下に置くようなことのためにどういう手段を使うか。それは単なるシーレーンの封鎖であるかもしれないし、武力行使であるかもしれないし、それから偽情報、サイバープロパガンダであるかもしれないし、それはいろいろなケースが考えられると思いますよ。だけれども、それが戦艦を使って、そして武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースであると私は考えます。」