タイ・カンボジア共同宣言から見えてくるもの
タイ・カンボジア国境紛争と共同宣言の発出
10月26日はASEAN首脳会議も開催され、ミャンマーについての首脳の共同文書が採択されたり、東チモールの正式加盟が決まってASEAN11が実現するなど注目点が多々ありました。しかし、もっとも耳目を集めたのは、国境紛争でもめていたカンボジアとタイの首脳による、共同宣言の発出でしょう。
タイとカンボジアの国境紛争は、今回いきなり勃発したものではありません。カンボジアがフランス領インドシナの一部であった時代のフランスとタイとの間にすでに衝突があり、その後カンボジアが独立後も、両国の国境地帯にあるプレアヴィヒア寺院遺跡およびその周辺を巡って両国は争い、二度交戦しました。そしてこの問題を巡ってはカンボジアが国際司法裁判所(ICJ)に提訴し、2013年には、二度の交戦の舞台となったプレアヴィヒア寺院周辺の領有権がカンボジアにあるという判決を勝ち取っています。その後は、概ね両国は貿易や経済協力などを優先させることで関係を安定化させてきました。
しかし、今年5月、再び両国は国境未画定の係争地で衝突、カンボジア兵1名が死亡しました。その後、タイがカンボジアの国境検問を閉鎖、7月24日には再び係争地での武力衝突が起こり、戦車や戦闘機まで投入され、戦闘が本格化し、民間人を含め両国併せて多数の死傷者が出ました(死者数については諸説あります)。周辺住民が多数避難するなど被害が拡大する中、7月28日にアメリカからの強い介入もあり、停戦で合意されました。その後も緊張が続き、死者は出なかったものの、9月末にも係争地での衝突が起こっています。しかし、そうした中でも、今回の共同宣言発出に向けて折衝が続けられていました。
タイのシリキット王太后が死去を受けて、タイのアヌウィン首相が出席できないかもしれないという報道も一部ありましたが、結局彼はマレーシアに赴き、カンボジアのフン・マネット首相とこの文書に署名しました。この共同宣言は両国の国境紛争の完全な解決を意味するものではありませんが、両国が、7月28日に実現した停戦を踏まえ、武力による威嚇を控え、紛争の平和的解決や国境及び国際法の遵守などを改めて確認し、紛争のエスカレーションを回避することを宣言したことは大きな意義があります。